2019年春に、仕事と保育園と住居が一緒になった複合施設「いちぼし堂」がオープンします。この施設は、北川グループの北川信央さんが構想してきた新規事業。静岡で新しい働き方をリデザインする場として、今後の展開が楽しみな場所です。北川信央さんから、「いちぼし堂」を創るまでの過程や、今後の展望などについてお話を伺いました。
輝かしい経歴を持つ北川さんですが、なぜ静岡に帰郷しようと思ったのですか?
自分のこれまでの人生の中で、2つのターニングポイントがありました。1つ目が16歳の時。高校ではサッカー部に所属していたのですが、ある日、試合中に突然右耳が聴こえなくなったんです。突発性難聴でした。学校を長期間休んだのですが、メンタル面で崩れることはありませんでした。それは幸せなことに、両親の愛情を常に感じ、自分の居場所を感じられていたからだと思います。
2つ目が20歳の時。父が亡くなったんです。当時、京都の大学に進学しており、外資系企業が目覚ましい発展を遂げていた頃。自分も世界で戦えるグローバルな人間になりたいと思っていました。しかし、父が亡くなったことで、一旦、大学を休学し、家業を手伝うことにしました。しばらくすると、それまで専業主婦だった母が一念発起し、会社を継いでくれることになったんです。その後、復学し、会計士の資格を取得。大学卒業前には、8か月間ほどスコットランドやアメリカへ。語学留学も兼ねて世界を見てきました。卒業後は、東京にある「あずさ監査法人」へ会計士として入所。首都圏のオフィスで1年半勤務し、その後、異動願いを出して静岡オフィスで1年半勤務しました。
その頃、母が会社でとても大変そうにしているのを目にしていました。今後の自分のキャリアを考えた時、もう世界に出ている時間はないと感じるように。東京で大企業の現場を見てきましたが、実際、課題を持つのは地方。地元で自分の力を試してみようと思いました。こうして2013年、あずさ監査法人を退所し、北川グループの経営に参画することにしました。
北川グループでの経営参画後から、「いちぼし堂」を企画するまでの軌跡を教えてください
北川グループでの経営参画後は、まず、「カイゼン(改善)」を掲げ、現場の立て直しを計りました。業務を細分化することでシニアや女性が働きやすい環境を整え、また、女性の若手リーダーの育成にも力を入れました。全社員、毎日定時退社を実現し、育児中の女性社員も働きやすい職場になりました。この取り組みが評価され、静岡市の「平成29年度 静岡の活躍応援事業所表彰」では大賞を受賞。会社の問題解決ができたので、次のステップへと思い、取り組み始めたのが静岡のまちづくりに関するプロジェクトでした。
新規事業のコンセプトを考えた時、「豊かさとは何か」ということが思い浮かびました。自分自身が2度の困難に直面した時、いずれも救われたのは「居場所」があったから。居場所を作るのは、育児世代やシニア世代ではないかと自分は思うんです。そこで、まずはママたちが豊かになってくれたら、町も豊かになれるのではないかと考え、インクルーシブルに働き方をデザインしようと企画しました。こうして完成したのが国内初となる職・育・住一体型複合施設「いちぼし堂」です。
「いちぼし堂」について教えてください
「いちぼし堂」の1階は、子育てと働くことをリデザインする「いちぼし保育園」(企業主導型保育事業)、2階は、人や企業に合わせて働き方のレシピを提案する「いちぼしHR STUDIO」と、人や企業や地域の人々が「働く」をテーマに、遊んだり、学んだり、相談するための場「いちぼしコミュニティ」、3階は、県内外企業が保養目的や福利厚生として活用するレジデンス付テレワーク拠点「いちぼしRESIDENCE」となっています。「いちぼしHR STUDIO」は、お仕事紹介付きコワーキングスペース・レンタルスペースでもあります。キッチンや授乳室もあるんですよ。
北川グループの中には、「キタガワビジネスサービス」という人材サービスを提供している会社があるので、人と企業のマッチングを新しいユニークな手法で解決できたらと考えています。ここへ来れば、保育園も仕事も居場所も見つかる。そんな場所だと思います。
北川さんにとって静岡はどんなところですか? そして、これからの展望を教えてください
静岡は、対世界で考えた時、十分にポテンシャルがある土地です。日本一高い富士山、日本一深い駿河湾、温暖な気候、徳川家康といった歴史上でも重要な役割を持つ人物とゆかりのある土地、たくさんのストーリーを持っています。独立経済圏でもあり、保守的な人が多いですが、ちょっと弾けたところもあって、自由でおもしろい土地だと思うんです。地域とともに、対世界を意識したまちづくりができるのではないかと。静岡は、心も豊かにしながら試せる場所。ワクワクしてきますね。最近、M&Aのプロでもある会計士と、デザイナー、エンジニアとで「株式会社 煎」という、地方創生関係の事業を行う会社を立ち上げました。自分以外は、全員東京在住のメンバーですが、まずは静岡で地方創生ができたらと考えています。
日本を支えているのは、毎朝、道を掃除してくれているようなおじいちゃんやおばあちゃんたちだと思うんです。道を掃除してくれるお年寄りがいなくなってしまったら、世界から日本に来る人もいなくなり、日本は崩れていくのではないかと思うんです。新しいことを始めるのも大事ですが、その土地の雰囲気やよさを受け継ぎながら育んでいけたらなと考えています。
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